2013年5月20日月曜日

ラーメンズ、「アトムより」 可笑しさの隙間の寂しさ

 たまに夜中にYou Tubeを延々見続けることがある。今日は在日ファンクから始まって、サケロック、大人計画社歌につづいた。くだらなくて面白いのだけど、何か足りない感じがして、次の動画を探してしまう。
 最後はラーメンズに行き着いた。何度も見ている気に入ったコントではなく、あまり記憶に残っていないものを探す。「アトムより」。これが「ATOM」という公演の最後のコントだということは覚えていたが、内容はほとんど忘れていた。ラーメンズが公演の最後に持ってくるコントは、笑わせた後に、余韻を残すものが多い。何度も見たくなるのはこのタイプのネタなのだが、「アトムより」に関しては、繰り返し見ていない。見始めると、内容を徐々に思い出したが、やはりつかみどころがない印象を受ける。

 窓からグラウンドが見える部屋の中、2人の男が話している。帽子をかぶった男(片桐仁)は語尾にノス・わいね、などをつけることや、大マンモス展を大きなマンモスの展覧会だと言い張り、言動に子供っぽさが残るといったおかしさはあるものの、会話はよどみなく続いていく。全く会話が成り立たないような登場人物が出てくるコントとは明らかに違う。もう一人の男、トガシ(小林賢太郎)は、帽子の男の発言をただしつつ、すこし醒めたような態度で会話をつづける。
 中盤、会話の内容から彼が映画監督をしていることがわかるのだが、彼の作品の大ファンだという帽子の男は、そのトガシの作品世界を「日常の中の非日常ではなく、非日常の中の日常を描く、一見すると異様な世界観だけど、その世界の住人たちにとっては、いつもの出来事って感じがするノス。それが心地よいノスノス」と解説する。彼らのコントを一度でも見たことがあれば自明であるが、これはまさにラーメンズの世界観である。「アトムより」もこれに当てはめてよいだろう。しかし、ここではそれだけで終わらない。終盤の仕掛けで、実はトガシが独りきりだった、という事実が明らかになる(詳細はネタを見ればわかります)。ここにきて、つかみどころのないように見えたこのコントが腑に落ちた。自分に甘えてきつつ、自分の作品世界を理解してくれる、そんな友人は彼には存在しなかった。全編に漂う、可笑しさの隙間の寂しさは、その事実から来ていたのだった。
 以前はわからなかったが、今はわかる。これから僕は、このコントも繰り返し見ることになると思う。

全メキシコ選手権


 これからここに文章を書いて、練習をしていこうと思います。何の練習かといいいますと、文章を書く、物を考える、考えたとこを伝える、など色々です。練習中の身なので、下手です。それを忘れて上手い風なものを書かないようにすることだけ気をつけようと思います。
 はじめに、以前に大学の剣道部の部誌に載せるために書いたものを転載します。メキシコの剣道の大会を初めて見たという、内容です。


 いま僕はメキシコにいるわけだが、はじめがとにかく大変だった。ロサンゼルスの空港で飛行機に乗り遅れたり、スーツケースが見つからなかったり、住む家が見つかるまで泊るのに予約したホテルの場所が、治安が悪めの広場で、早朝に着いてみると酒の瓶やらその他のごみやらで埋め尽くされたとんでもないところだったり、その後借りることができた家でトイレを詰まらせたかと思ったり、いろいろあった。
 そういうわけで、大学の剣道部に足を運ぶまでにだいぶかかった。初めて行った稽古は、翌日早朝から大会があるということで、数人しか参加者がいなかった。大会があるなら、観に行ってみたい。法学部のイバンにそう伝え、連絡先を交換した。稽古は夜で、十一時ごろに家に着いてから、イバンが連絡をくれた。朝七時に集合だそうだ。行くと言ったことを少し後悔した。
 翌朝、車で現地へ連れて行ってもらった。防具を担いだメキシコ人たちが続々と集う。僕が通う大学、UNAMのチームの中に、胴着を着た姿がなかなか決まっている格好良い人がいて嬉しくなった(剣道では胴着・袴の着こなしなどの着装はかなり重視されていて、実際に、強い人は例外なく着装が美しいのだ)。開会式があり、試合が始まる。男女それぞれ実力別に二段階に分かれて、個人戦が行われるらしい。初めは男子の上のクラス。上のクラスだが、まだ防具をつけてそんなに経ってないのではないか、という人もいる。明らかに上手な選手もいて、白い胴着、袴で上段のフローレスの存在は際立っていた。試合がある程度進んだところで、セレモニーが挟まり、ここで初めてこの大会が“全メキシコ選手権”のようなものであることを知った。メキシコ中から剣道家が集っていたのだ。メキシコでは電車がほとんどなく、長距離の移動は車・バスか飛行機だ。いずれにしろ、骨が折れる。大変なものだ、仕事もあるだろうに。セレモニーが終わり、個人戦が続いた。注目していたフローレスは兄弟対決に敗れて、ベスト8に終わったが、後でホームページを見てみると、彼の段位は五段とあった。強いわけだ。
 上のクラスが終わり、男子の下のクラスが始まった。昨日知り合ったイバンは両方のクラスに出場するらしい。ありなのだ、そんなことも。試合は続き、昼を過ぎると、睡眠不足がたたり出した。女子個人戦や子供の試合が行われていたがほとんど記憶にない。眠気と疲労が完全に試合への興味に勝っていた。それが終わると、時刻は六時半過ぎになっていた。長かったなぁ、と思っていると、ここから団体戦が始まるらしい。待ってくれ、今からやるのかい?それって今日中に終わる?と思いつつ、団体戦が進んだが、九時ごろに施設が使えなくなるようで、トーナメントの途中で残りの試合は明日となった。たいそう雑な運営だと思うが、選手たちはあまり気にしていないようだった。
 帰りも車で送ってもらった。道に迷って真逆の方向に進み、市の郊外にあるテオティワカンの遺跡を示すPIRAMIDES(ピラミッド)という単語が、道路の行き先案内に現れた。皆でげらげら笑った。途中、食事によって、タコスとビールをごちそうになった。
 翌日の試合は観に行かなかったが、その後もう一度稽古に参加した。まだ防具が届いていないため、十人位いる防具なしで基本を稽古している人たちに混ざった。稽古後は飲みに行き、小ぶりなピッチャーくらいあるジョッキでビールを飲んだ。僕のスペイン語能力ではまだ内容は聞き取れないが、ビールを片手に剣道について楽しそうに語るメキシコ人たちを見ると、こちらも楽しくなった。実力的には剣道の世界の周縁なのかもしれないが、そんなことはまあいいか、と思う。